エビデンスに基づいた発見。セッツ独自のウイルス除去技術誕生話
新型コロナウイルスの感染予防として消毒・除菌が強く意識されている2021年。
そんな変革の時代に、大きく飛躍を遂げるメーカーが大阪府堺市にある。創業130年以上の歴史を誇るセッツ株式会社だ。
もともとは植物油を製造する製油会社として創業した同社は、日清オイリオグループ(株)の完全子会社となった2017年、事業構造を転換。現在は業務用洗剤やアルコール製剤などを取り扱う衛生管理事業を中核に据えている。
特許となっている同社の除菌・ウイルス除去技術は、高い衛生管理が求められる食品工場や飲食店などで用いられ、コロナ禍では食品業界だけでなく幅広い業界において活用されているという。
新型コロナウイルスやノロウイルスをはじめ、幅広い細菌やウイルスへの対策として用いられている除菌・ウイルス除去技術はいかにして生まれたのか。
今や食品業界だけにとどまらず、幅広い業界で同社が支持を受けている理由に迫った。
ノロウイルス対策にアルコールは通用しない
コロナ禍前から食品業界で一般的な衛生対策として用いられてきたアルコール。
新型コロナやインフルエンザなどのさまざまなウイルスや細菌による感染症対策に効果を発揮するが、実は食中毒を引き起こすノロウイルス対策にアルコールは通用しないのをご存知だろうか 注1 。
除菌・ウイルス除去の技術開発を担当し、現在、東京を拠点に営業を担当する田坂氏は、その開発背景についてこう語る。
「2000年代からノロウイルスが原因の食中毒が問題視されるようになり、対策が求められるようになりました。もしノロウイルスに効果的な成分を見つけ出すことができれば、アルコールと組み合わせることで、従来のアルコール製品による衛生管理の延長でノロ対策も可能になると考え、国内外の論文や第三者の研究データなどを調べ、技術開発を進めていくことになりました」
そんな除菌・ウイルス除去の技術開発にあたって、最も重要視されたのが確かなエビデンスの取得だ。
「エビデンスをきちんと取った、本当にノロウイルス対策に効果を発揮する成分を探し出すことが、我々の最初の課題でした」(田坂氏)
田坂氏と除菌・ウイルス除去の技術開発に従事し、同社の研究リーダーとして衛生管理の技術開発に携わっている國武氏はこう補足する。
「成分の検索にあたっては2つの課題がありました。ひとつはヒトノロウイルスの代替ウイルスとして一般的に試験されていたネコカリシウイルスで効果が確認できること。ふたつ目は本物のヒトノロウイルスで効果が確認できること。この2つの効果が認められて初めて、エビデンスとする前提で研究を進めていきましたね」
研究を前進させた大阪府立大学との共同研究
食中毒対策を必要としている顧客は主に食品業界のため、食品工場や厨房で安心して使用できる食品添加物・食品素材を中心に検討を行った。
2人は一部の学術研究でノロウイルスへの効果が指摘されていたポリフェノールを軸に、70種類以上の食品素材で効果を検証したという。
「美容成分として流行したアスタキサンチンから生薬まで、少量で高い効果を発揮し調達が比較的容易で、安全な食品添加物や食品素材でスクリーニングを行いました」(田坂氏)
「さまざまな成分・素材の中から最終的に見出したのがブドウ種子エキスです。ワインの粉末などブドウ由来のものは、総じて実際の利用シーンに近い環境で効果的な傾向がありました。逆に同じポリフェノール系でもお茶由来のものはヒトノロウイルスにはあまり効きませんでした」(田坂氏)
研究を始めて1年半後に新たな除菌・ウイルス除去の技術確立に至っているが、この開発スピードには大阪府立大学との共同研究が大きく寄与している。
「自社でウイルスの研究設備がなかったので、当初は検査会社にサンプルを出してスクリーニングの検査をお願いしていましたが、70種類以上の検査となると膨大な時間と費用がかかってしまい、結果もついてこない。そんな悩みを抱えているときに、大阪府立大学の教授に相談し共同研究が実現したことで、除菌・ウイルス除去の技術開発は大きく前進しました」(國武氏)
当時はヒトノロウイルスの検体の入手が困難なこと、ノロウイルス自体の培養が困難であることが高いハードルであり、代替ウイルスであるネコカリシウイルスによる効果の検証が一般的であった。
「ヒトノロウイルスに対する技術の有効性の検証において、大阪府立大学と共同研究が進められたことは、我々にとって大きな幸運でした」(田坂氏)
さらなる技術の進化
「コロナ禍である現在とは異なり、当時はウイルスと細菌の違いやインフルエンザウイルスとノロウイルスに対するアルコールの効果に差があることなど、理解がまだまだ進んでいなかったので、当初はブドウ種子エキス含有アルコールの技術的な強みをいかにわかりやすくお伝えできるかが課題でした」(田坂氏)
それでもノロウイルスによる食中毒が報道などで注目されるたび、ブドウ種子エキス含有アルコールの研究はさらなる進化を続けてきた。
特に大きな課題は色味の改善に関するものだ。
「ポリフェノールを含む原料にはどうしても色味があり、温度や光でポリフェノールが酸化すると、その色は濃くなっていきます。何度も噴霧して乾かすことを繰り返すうち、少しずつ色が残ってしまうことも課題でした。いまも試行錯誤を重ねている段階ですが、ほぼ見た目には気にならないレベルまで、この色味を極力薄くすることが可能となりました」(國武氏)
「酸化防止剤を複数組み合わせて添加することで、時間が経過しても濃い色にならないようにしていて、この技術は特許を出願しています。また、ウイルスに対する効果も強化し、対象物に汚れが付着した状態でも効果を発揮できるようになりました」(國武氏)
「当初、低濃度アルコールとポリフェノールの相乗効果を研究しておりましたが、コロナ禍での需要に対応し、様々なアルコール濃度に対応した技術開発にも取り組み、エビデンスを取得しました。今後はさらにブドウ種子エキスの効果を発揮させる技術を引き続き研究していきます」(國武氏)
高い基準のエビデンスを求めるセッツの除菌・ウイルス除去技術。その進化はまだまだ止まらない。
注1 厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
〈取材・文 伊藤綾〉